水を湛えて光る、金魚玉。
イタリア系の顔立ち。
涼しい首飾り。
まだ侍が日本にいた時代から、日本人は大の金魚好きだった。元は変異種の赤い鮒、それを交配して作り出された、中国伝来の美しい生き物。生活のために、侍達が金魚を育て売っていたから、奈良県辺りには良い金魚が多かったという。私は不思議と、武士に縁あるものを好む子供だった。虚弱を治す為に連れて行かれた道場だったのに、何故か剣道は既に知っていたから、すぐに指折りの剣士になってしまった。雨の日も風の日も、毎朝の素振りの鍛錬を惜しまず、一切が苦にならない。金魚が大好きで、いつまでも飽かずに眺めているし、何より世話をするのが上手かった。馬の嗎や蹄を蹴立てる様には胸が高鳴るから、侍の映画も好きだった。一度は何処かで侍だった事があるのかもしれない。買い求めた金魚を持ち帰る為の、びいどろ玉。それに金魚がいるから、金魚玉。金魚鉢に放つ前に、それを暫し、眺めて楽しむ。そんな訳もあって、この首飾りはヴェネツィアからやってきたのに、すっかり日本に馴染んでいる。私の懐かしい記憶を呼び覚ます首飾りなのだ。
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