甘美な硝子。
千夜一夜物語のよう。
梟は黙して語らず。
我が家は割に裕福だったが、お金には厳しかった記憶がある。夏祭りの夜店には連れて行ってくれたが、焼きとうもろこしは絶対に買ってもらえない。同じのを作ってあげると丸め込まれ、結局は茹でたとうもろこしが出てくる。そんな母が必ず買ってくれるのは、ルビィのように輝く林檎飴。然程美味しくないのに、美しいからという理由だけで、躊躇なく買ってくれる。宝物のように大事に抱いて帰って、いつまでも眺めて楽しむ。貴方は綺麗な物を見ている時が一番幸せそう、母も嬉しそうに笑う。他に夜店で買ってくれる物は、硝子細工だった。そんな母の教育の甲斐あって、硝子質の物には目がない。ヴェネツィアングラスの麗しき香水瓶達は、私の宝物だ。遠い記憶を辿っていたら、母は私に、美しい物だけを買い与えていたという事に、今更ながら気づいたのだった。
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