掘り当てた黒曜石、たくさん。
小さな小さなニイニイゼミ。
儚く白い、小さな蟷螂の抜け殻。
小鳥の骨と徳利蜂の徳利。
雨は何故降るの?雲は何で出来ているの?どうして夜になるの?何故、何故?幼稚園に行く道すがら、手を繋いでいる息子が見上げてくる。蟻の巣や霜柱、自動車の車輪、蝸牛、蝉の抜け殻。彼の足を止める物は無数にあるから、いつも二人でゆっくりと歩いて行く。小さな手を握りながら、いつか大きくなってしまう予感に切なくなる。この瞬間を大切にしようと、いつもゆっくりと歩いていた。いつだか田舎に行った時、虫取りを嫌がる息子に義父は呆れていたが、心優しい彼にとっては、何が面白いのかさっぱり理解出来なかったらしい。付き合いで嫌々、虫取り網を振ってみたものの、本当に嫌だったそうだ。幼稚園の帰り道、小さな蝸牛を手に乗せていて、落とした拍子に誤って踏んでしまった事がある。滅多に泣いた事のない男らしい息子が、わんわん泣いた。可哀想だと言って、自分を責めている。わざとした事ではない、誰にでも間違いはあると慰めながら帰宅したが、暫くは元気がなかった。大きくなった今も、相変わらず、どこからか弱った虫を連れ帰って来ては、あれこれ世話を焼いている。昨年の夏は、後ろ足を失った殿様バッタを連れて来て、息絶えるまで飼っていた。昨日は、ビル街の噴水でなす術もなく浮いていた昆虫と共に帰宅して、黒砂糖を溶いた水をやり、桜の枝を折り入れた虫籠で世話をしていた。今朝になって、犬の散歩の際に肩に乗せて連れて行ったら、最後には森に向かって飛んでいったそうだ。もし自力で飛べなかったら、また虫籠で世話をするつもりだったらしい。黄金虫かと思っていたけど、調べてみたらハナムグリだったよ、キラキラして綺麗だったなぁ、と笑っている。大きくなった息子には不釣り合いの小さな虫籠は、幼稚園の頃から家にあるが、そんな彼と幸運な虫達のためにも、まだ暫くは物置の定位置に置いておかねばならない。心優しき男に育った彼を誇らしく思いながら、虫籠を洗っている。
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