ピンク、水晶。好きな組み合わせ。
ブチェラッティみたいな色合い。
空き巣と強盗の違い。人がいない時か、いる時か。そうすると、我が家に来たのは強盗という事になる。父は不在、私と母の女ばかり二人だった夜に泥棒が入った。翌朝、母の叫び声で、何か良からぬ事が起きたのは直感したが、まさか泥棒とは驚いた。屋敷が広いから全く気づかなかったが、ご丁寧に隅から隅まで物色した様子、母の宝石や現金はすっかり盗まれてしまっていた。祖母の形見だったり、宝石には思い出が詰まっていたから、立っているのも辛いほど体が震えてくる。刑事や鑑識が忙しなく出入りする頃には少し落ち着いたが、それでも二人とも寝巻きにガウンを羽織った姿のままだった。そんな姿を他所様に披露したのは、後にも先にも、その時だけである。私の部屋のドアが数センチ開いていたし、台所の包丁がいつもと違う場所に置いてあったから、刑事に、お二人ともよく生きていましたね、と感心された。強盗は綿密に計画してから押し入るそうだ。だから手ぶらでは帰らない。家の者を脅し、奪ってから、証拠隠滅して出ていくらしい。これは刑事が教えてくれた。そして、幸い宝石と現金がたくさんあったから、満足して何もせずに出て行ったと結論した。おや、庭に大きな犬がいたのに吠えなかったんですか?…刑事を始め、出入りする関係者が口々に言うから、犬は気の毒だった。ひと段落したのは、昼近く。茫然としている私を見て、祖母の宝石が私達を助けてくれた、母はそう言って笑った。命があれば何とかなる、盗られた物なんか悔やんだって仕方ないわよ。殺されなかったなんて、やっぱり私達はついてるのね!!翌日、母はブチェラッティのリングを3つ買ってきた。翌々日には大きなエメラルドのリング、その次の日も、また次の日も。がらんとしていた棚はあっという間に新しい宝石で埋まった。使わない古い宝石なんかより、こっちの方がずっといいわ!ああ、嬉しい!!結局のところ、母からは一言だって泣き言や愚痴を聞かなかった。凄い人だ。犯人は後日捕縛され、刑事に連れて来られたが会わなかった。盗品は遊びに使ったから何ひとつ戻らず、財産も住む場所もない男と裁判しても無駄だから、それでお終いと相成った。このブチェラッティのリングは、母がくれたもの。泥棒のブチェラッティのリングと呼んでいる。私のも死んだら貴方にあげるわね、と母からは言われている。
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