兄弟と、雪だるま君。
美しい後ろ姿と、雪だるま君。
こんなお友達、羨ましい。
幼少の頃、玩具にしていた入れ子の人形。開けて並べて、また入れて。同じ顔が出てくると分かっているのに、飽かずに繰り返す。つるりとした手触り、甘いような木の匂い。睫毛の長い異国の美少女達は、同じ顔の四人姉妹。私の大事な遊び友達だった。名前を知ったのは、少し大きくなってから。ソビエトから来たマトリョーシカ。土着民族のお面、銀の食器、象嵌細工の鏡台、洋装のビスクドール、汕頭の大きな額縁、大きな龍の木彫り。家には世界中から集められた風変わりな物が沢山あり、そのうちの一つに過ぎなかった。そんなお友達の事はすっかり忘れ、随分と大人になったある日。デパートで品物を眺め歩いていたら、目の覚めるような金髪が目に飛び込んできた。青い瞳の美女が、何やら絵を描いているようだ。近付いてみて、あ!と声が出る。私のお友達ではないか。ああ、こんな人達が作るから、あんなに睫毛の長い美少女だったのかと感心していると、いかがですか、と綺麗な日本語。彼女が美しいから、マトリョーシカ達も当然美しい。思わず、4個。目が飛び出るくらい高かったのだが、呆れながらも優しい家人は買ってくれた。これは、そのうちの1個。後から知ったのだが、ウクライナのマトリョーシカは全部違う人形が出てくる。それは家族だったり、仲間だったり。愛に溢れた優しい人形達である。当時は気にも留めなかったが、腕にしっかりと抱えているのは黄色い小麦。それはウクライナの国旗の黄色。誇り高き、黄色なのだ。一番小さな人形に願いを囁いて、息を吹きかけてから戻すと叶うと聞いた。雪だるま君、ウクライナに再び黄金の小麦を実らせて。美しい人々に平和と幸福を。だいぶ暢気な顔の雪だるま君だが、しっかりと聞いていてくれた筈だ。
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